目の錯覚

 セミョーン・セミョーノヴィチが眼鏡をかけ、松の木に目をやると、そこには百姓が座っていて、彼に拳をかざしている。
 セミョーン・セミョーノヴィチが眼鏡をはずし、松の木に目をやると、そこには誰もいない。
 セミョーン・セミョーノヴィチが眼鏡をかけ、松の木に目をやると、そこにはまた百姓が座っていて、彼に拳をかざしている。
 セミョーン・セミョーノヴィチが眼鏡をはずし、松の木に目をやると、松の木の上にはやはり誰もいない。
 セミョーン・セミョーノヴィチがまた眼鏡をかけ、松の木に目をやると、そこにはまた百姓が座っていて、彼に拳をかざしている。
 セミョーン・セミョーノヴィチはこの現象を信じたくなくて、これを目の錯覚だとみなしている。

1934年