手帖

目次
オベリウについて/『アルキメデスの風呂』構想/世界文学アンソロジー構想/天才について/ぼくの好きな作家/ハルムスの戦争嫌い

(以下、マーカー部分は訳注および解説)

オベリウについて

<1928年10月~11月>

月曜日、ヴァーギノフから電話。

オベリウ。

オベリウについて。

オベリウの実際のメンバーを数える:ハルムス、バーフテレフ、レーヴィン、ヴヴェジェンスキー。4人。文学部門。ヴィギリャンスキーは支配人。

オベリウの絵画部門を創設する。バーフテレフとカプルンを呼ぶ。

原則:人数の少なさを心配する必要はない。3人でも互いにきつく結びついている方が、それより多いものの絶えずすれ違ってばかりいるようなものよりも良いのだ。

『アルキメデスの風呂』構想

 <1929年4月~1930年1月>

当時企画されていたものの、結局出版されずに終わった作品集『アルキメデスの風呂』についてハルムスが記したメモ。ここに挙げられている詩人/作家/批評家らのほとんどは、現代ではすでに伝説と化しているような著名人ばかり。


1. ザボロツキー

2. ヴヴェジェンスキー   2枚

3. ハルムス

3. フレーブニコフ(番号は原文のママ)

4. チーハノフ [チーホノフ?]

戯曲
『エリザヴェータ・バム』 1枚

散文
1. カヴェーリン  3/4

2. ヴヴェジェンスキー  -3/4

3. ドブィチン

4. ハルムス

5. トゥイニャーノフ

6. シクロフスキー

7. オレーシャ

批評
1. ステパーノフ

2. ゴフマン

3. ギンズブルク

4. ブフシュタプ

5. カヴァルスキー

6. シクロフスキー

7. トゥイニャーノフ

8. エイヘンバウム

四人衆
(三人衆)
詩:ヴヴェジェンスキー

散文:カヴェーリン

論文:ゴフマン

戯曲:ハルムス


シクロフスキーやトゥイニャーノフらフォルマリストの名前に思わず目がいってしまうが、カヴェーリン(1902-1989)にも注意したい。1920年代のレニングラードで活躍した文学グループ「セラピオン兄弟」の一人として知られている彼は、トゥイニャーノフを義兄に持つなどフォルマリストとの縁も深い。また、その初期の創作は非ユークリッド幾何学に想を得ており、やはり非ユークリッド幾何学に触発されたフレーブニコフ(『ラドミール』)やハルムスと思想的に近しいものがあったといえる。

しかし、カヴェーリンとハルムスの関係のなかでもっとも興味深いのは、ロシア文学史に埋もれていたハルムスに再び光を当てたのが、まさにカヴェーリンその人だったということである。

世界文学アンソロジー構想

<1935―1936年頃> 

原文には特に説明はないものの、以下のリストで、ハルムスはロシア文学と世界文学のアンソロジーを空想していたのかもしれない。少なくともハルムス全集の編纂者はそう注釈を加えている。

(判読できない単語2個――原注)
ロシア文学
1.聖書外典

2.ヨハネス・クリュソストモス

3.ダマスコのイオアン

4.ブィリーナ

5.イーゴリ軍記

6.フェオファン・プロコーヴィチ

7.ドモストローイ

8.トレチャコフスキー

9.カンテミール

10.ロモノーゾフ

11.デルジャーヴィン

12.カラムジン

13.プーシキン

14.バラティンスキー

15.ゴーゴリ

16.ドストエフスキー

17.トルストイ(選集)

18.レスコフ

19.ネクラーソフ

20.チュッチェフ

21.ソログープ(選集)

22.ブリューソフ(炎の天使)

23.ベールイ(選集)

24.(ブローク)チェーホフ

25.ダヴィド・ブルリューク

26.フレーブニコフ

27.レーミゾフ

28.ローザノフ

29.プルトコフ

30.エルショフ

31.センコフスキー

32.ポレジャーエフ

世界文学
1.シェイクスピア

2.ベン・ジョンソン(選集)

3.シェイクスピア時代の劇作家が好き

4.ブレイク

5.ディケンズ

6.マーク・トウェイン

7.エドガー・ポオ(選集)

8.(ブラウニング)

9.ロングフェロー(選集)

10.エドワード・リア

11.ルイス・キャロル

12.ミルン [A・A・ミルン?]

13.キプリング(選集)

14.バラッド

15.ミルトン

16.スターン

17.リチャードソン

18.コナン・ドイル(選集)

[19番は欠如]

20.ラブレー

21.ポール・スカロン

22.コルネイユ(選集)

23.バルザック(選集)

24.メーテルリンク(選集)

25.マルセル・プルースト

26.ダンテ

27.スウィフト(選集)[27番から10番に向けて矢印が書きこまれている]

28.セルバンテス(ドン・キホーテ)

29.レオナルド・ダ・ヴィンチ

30.カルデロン(選集)

31.クラシンスキー(選集)

32.ショーレム・アレイヘム(選集)

33.ペルッツ(選集)[レオ・ペルッツ?]

34.メンデレ・モイヘル・スフォリム(選集)

35.ゲーテ

36.シラー

37.ハイネ

38.ノヴァーリス

39.ホフマン

40.マイリンク

41.ハムスン

[ここから裏面]

世界文学

42.カレワラ

43.ミュンハウゼン男爵

44.ジェローム [ジェローム・K・ジェローム?]

天才について

<1933年10月(?)>

ぼくには判定できない古代の人々を除外するならば、真の天才はたったの5人しかいない。しかもそのうち2人がロシア人だ。その5人の天才・詩人というのは、ダンテ、シェイクスピア、ゲーテ、プーシキン、ゴーゴリだ。
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多作であることと生産力が高いということを混同してはいけない。
最初のものは必ずしもすばらしいわけではないが、二番目のものはいつもすばらしい。
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バラ、魚、人。

ぼくの好きな作家

<1937年11月14日>

                           人々にとって  ぼくにとって

1) ゴーゴリ     69            69

2) プルトコフ            42              69

3) マイリンク            42              69

4) ハムスン               55              62

5) エドワード・リア   42              59

6) ルイス・キャロル   45              59

いまは特にグスタフ・マイリンクがお気に入り。

1937年11月14日


プルトコフ:コジマ・プルトコフのこと。19世紀の詩人アレクセイ・トルストイとジェムチュジニコフ3兄弟の合同ペンネーム。風刺詩やアフォリズムで人気を博した。
作品が短いこと、そして笑いの要素が強いこと――この2点によって、ときどきハルムス作品と比較される。

ハルムスの戦争嫌い

<1937年>

もし国家を人体に喩えるなら、戦争のときは踵で暮らしたいものだ。

ハルムスが戦争を忌避していたことはよく知られている。上の記述はその拒絶感を間接的に、ユーモラスに表現している。国家の「踵」とは、国家の一番後方、その一番目立たないところを指すのだろう。したがって、「踵で暮らしたい」とは、前線から最も遠い、戦火の最も及ばない場所で暮らしたいという希望の表明にほかならない。