どのようにして使者が私のもとを訪れたか

 時計の中で何かを叩く音がした。すると私のもとに使者がやって来た。使者がやって来たのだと、すぐには分からなかった。まず思ったのは、時計が壊れたのではないかということだ。しかしこのとき、時計は動き続けており、またほぼ確実に、正しい時を刻んでいるのが分かった。それで、部屋に隙間風が吹いているのだと思うことにした。突然はっとした。時計の針が狂っていることと部屋に隙間風が吹くこと、これらが同じように原因になりうるような、そんな現象とは一体何だろう? このことについてじっと考えている間、私はソファーの傍に置いてある椅子に腰かけ、時計を見つめていた。分針は9を指していて、時針は4の辺りを指していた。つまり、3時45分だ。時計の下には日めくりカレンダーがかかっていて、そのページがパラパラとめくれてゆく。まるで部屋を強風が通り過ぎて行ったように。心臓がドクンと打った。意識を失いそうだった。
 「水を飲まないと」私は声を出した。すぐ脇にある机の上に水差しが置いてある。私は手を伸ばして水差しを摑んだ。
 「水は効き目があるぞ」そう言って私は水に目を凝らし始めた。
 このときふと理解した、私のもとにやって来たのは使者であり、けれどその使者と水との違いが私には分からないのだと。この水を飲むのが怖くなった。というのも、間違って使者を飲み込んでしまうかもしれないからだ。これはどういうことだろう? どういうことでもない。飲むことができるのは液体だけだ。では使者は液体だろうか? つまるところ、私は水を飲むことができる。ここに恐れることなど何もない。しかし水が見当たらなかった。私は部屋を歩き回って水を探した。口の中に革ひもを突っ込んでみた。でもこれは水ではない。カレンダーを突っ込んでみた。これもやっぱり水ではない。水なんて、と思って使者を探すことにした。でもどうやって連中を見つければよいのだ? 何に似ているのだろう? 思い出したのは、使者と水とは違いが分からないということだ。つまり、連中は水に似ている。でも水は何に似ているだろう? 私は立ったまま考えた。
 どのくらいの間立ったまま考え事をしていたか分からないが、突然ぶるっと身体が震えた。
 「水だ!」そう自分に言った。でもそれは水ではなかった。私の耳が単に痒くなっただけだった。
 タンスやベッドの下を手探りしながら、水か使者が見つからないかと考えていた。しかしタンスの下に私が見つけたのは、埃にまみれて転がっている、犬に食い破られた小さなボールだけだった。ベッドの下には、何かのガラスの破片しか見つけられなかった。
 椅子の下には食べかけのカツレツが見つかった。それをすっかり平らげてしまうと、身体が軽くなった。風はもうほとんど止んでいる。時計は穏やかにチクタクいって、正しい時刻を指し示している。3時45分だ。
 「つまり、使者は去ってしまったということだな」そう自分に言って、着替えを始めた。お客に行くのだ。

ダニイル・ハルムス

1937年8月22日